ポルトガルの「マディラ」ってどんなワイン? 熱と時間が育てるワイン
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マデイラ(マディラ)とは
マデイラ(マディラ)は、ポルトガルの南西約1000km、大西洋に浮かぶマデイラ島で造られる酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)です。(酒精強化ワインとは、蒸留酒を添加して造るアルコール度数が高いワインのこと)
高温環境での熟成が特徴で、他のワインとは比べ物にならないほどの耐劣化性を持っています。
ポルトガル本土で造られる「ポートワイン」、スペイン南部で造られる「シェリー酒(シェリーワイン)」と合わせて、世界三大酒精強化ワインとして知られています。
また、そのまま飲むのはもちろん、独特の香味を利用してソースなどの風味付けに使用される高級料理酒としても有名です。
マデイラワインの造り方と特徴
マデイラワインの最大の特徴は、なんと言っても異常なほどの高温での熟成でしょう。30~60度という高温(一般的なワインは5~20度前後)の中で長期間熟成されることによって、独特のコクと風味、そしてワインとしては異例なほどの耐久性を持つようになるのです。
この加熱を行う方法は大きく分けて2つ。
ひとつは「カンテイロ」と呼ばれる太陽熱を気温を利用した自然加熱、もうひとつは「エストゥファ」と呼ばれるヒーターやお湯を通した管を使った人工加熱です。
カンテイロでは、室温ができるだけ高くなるように工夫した小屋の中に樽を積み上げます。マデイラ島は日本の沖縄くらいの緯度にあるため一年を通じて気温が高く、直射日光の当たる密閉した部屋は、夏には50度以上の高温になります。
そこに数年~数十年、ただ放置して熟成を待つという手法は、赤道直下の船の底であぶられていた本来の熟成方法に近いものと言えるでしょう。時間がかかる分複雑で、完全に同じものは二つとない独自の風味を得られます。
ただ、それでは熟成の進みかたや品質が自然任せになってしまうため、安定して熱を加えられるエストゥファが開発されました。こちらはタンクの中で温度を管理した状態で、24時間加熱し続けることが可能になるため、数ヶ月~1年ほどで変化が完了します。(ただし、その後自然に冷ましたり樽に移して熟成させるのに少なくとも3年かかります)短期間で完成できるので生産者には嬉しいのですが、自然加熱に比べるとどうしても単調な熟成になってしまいます。
こうした製法を経て、ワイン自体の旨みや酸味は残しつつ、酸化熟成が進むことによって生まれるコクや樽由来の風味を合わせ持った、非常に複雑で味わい深いお酒になるのです。
マデイラワインの種類
マデイラはブレンドの有無や熟成期間などによって幾つかの種類に分類されます。
- フルスケイラ
- ブレンドは行わず、最短でも20年以上の樽熟成と2年以上の瓶熟成を必要とする最高級マデイラです。
加熱方法もカンテイロのみと定められていて、使うブドウ品種も同じ年に収穫された一種類だけ。
長い時間と手間がかかる上に、樽熟成の間にかなりの量が蒸発して目減りしてしまうため、マデイラの中でも特に希少で高級なタイプです。
- おすすめワイン
- ・バーベイト マディラ マルヴァジア・カンディダ(Barbeito Madeira Malvasia Candida)
- コリエイタ
ブレンドはせず、最短でも5年以上の樽熟成が必要なタイプです。
ブドウ品種も一種類だけに限定する必要があります。
フルスケイラほどの希少性がないため、比較的手軽に本格的なマデイラが楽しめます。
- おすすめワイン
- ・ブランディーズ マデイラ ブアル コリェイタ(Blandys Madeira Bual Colheita)
- ファイネスト
ブレンドは行わず、最短でも3年以上の樽熟成が義務付けられるタイプです。ブドウについての制限はなく、もっとも簡単なタイプのマデイラといえます。
- おすすめワイン
- ・ウェルシュ ブラザーズ マデイラファイネスト ミディアム ドライ(Welsh Brothers Madeira Finest Medium Dry)
- ヴィンテージ
20年以上の樽熟成と、ブレンドを行うタイプのマデイラです。長い熟成による複雑な風味は持ちつつ、ブレンドによってバランスを整えてあるため比較的飲みやすいタイプだと言えます。
- おすすめワイン
- ・ドリヴェイラ マディラ・ヴィンテージ・レゼルヴァ・セルシアル(D'Oliveiras Madeira Vintage Reserva Sercial)
- エクストラリザーブ
15年以上の樽熟成とブレンドを行うタイプのマデイラです。
- スペシャルリザーブ
10年以上の樽熟成と、ブレンドを行うタイプのマデイラです。
- リザーブ
5年以上の樽熟成と、ブレンドを行うタイプのマデイラです。
マデイラの楽しみ方
マデイラワインは、ブランデーを加えるタイミングによって甘口から辛口までいろいろなタイプがあり、それによって飲み方も変わってきます。
辛口は軽く冷やし、食前酒として飲んだり食事とあわせて楽しみます。料理は、シンプルであっさりしたものからこってり系の肉・魚料理まで、マデイラの熟成年数や風味に合わせて選ぶと良いでしょう。
- おすすめワイン
- ・ヴィニョス・バーベイト マデイラ ヴェルデーリョ(Barbeito Aged Varietal Madeira Wine Verdelho)
甘口はそのまま常温(15~20度)で、デザートと一緒に食後に飲んだり、ナイトキャップにしてもいいかも。マデイラは非常に劣化しにくいお酒なので、急いで消費する必要がなく、少しずつゆっくりと味わうことができます。アルコール度数も高いので、無理にたくさん飲むのは避けたほうがいいでしょう。
- おすすめワイン
- ・エンリケシュ&エンリケシュ マディラ フル リッチ(Henriques & Henriques Madeira Full Rich)
また、マデイラは料理やソースの味付けとして使用することもできます。一般的な料理酒のような使い方ではなく、少量を隠し味のように加えることで、特にコクのあるソースなどにいっそうの深みが加わります。自分で料理をする、という方は、マデイラを手に入れたら是非一度試してみてください。
マデイラワインは偶然によって生まれた
マデイラは2つの偶然が重なって生まれました。
一つ目は、船に積まれたワインが、暑い環境の中でおいしくなっていたことです。マデイラが生まれたのは、大型帆船での長期航海が行われていた、いわゆる「大航海時代」。赤道直下の高温の中を数週間、数ヶ月かけて航海する船に積まれていたワインが、その熱によって独特の味わいに変化していたのがきっかけです。
このワインは珍しいものを求めるイギリスの市場を中心に流行し、陸上でも似た環境を作ってたくさん生産されるようになります。
二つ目の偶然は、不良在庫がたくさんできてしまったこと。この頃は世界情勢が不安定で、それまでお得意様だった相手との取引が急にできなくなってしまう、という状況も珍しいものではありませんでした。
マデイラも同じで、大量に買ってくれていたイギリスへの販路が急に閉ざされてしまったことで、生産者の手元にすぐには売れないワインが残ることになってしまいます。
いくら高温で熟成させたとはいえ、その時点のマデイラワインはまだそんなに長く保管しておくことができるものではありません。困った生産者は苦肉の策として、在庫の一部を蒸留してブランデーにし、劣化防止用として在庫のワインに混ぜるようになりました。
すると、驚いたことにただ高温熟成させるよりもさらにおいしくなったではありませんか!こうして、2つの偶然を経て「ブランデーを加えた上で長期間高温の環境で熟成させる」という、あまりにも特殊な製法が生み出されたのです。
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